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第3回 防災コラム:防災×お金(最終回)

こんにちは!備え・防災アドバイザーの高荷(たかに)です。自然災害大国・日本において「防災対策」は重要なことですが、何からすればよいか分からない…、なんとなく大変そう…、そんなイメージをお持ちの方も多いのでは。

このコラムでは、生活に取り入れていただきたい身近な防災対策のノウハウを、ふんわりした解説でご紹介いたします。そうか、防災はこうすればいいんだ!というヒントを見つけて、ぜひ家庭の防災として実践してみてください。

第3話「防災×お金」を考える

今回のテーマは、「防災とお金」です。家庭で防災対策を行う際、気にしていただきたいポイントがあります。それは「できるだけ手を抜き、お金をかけずに行う」ことです。私のような「趣味=防災」な人種であれば、防災にお金をかけることは楽しみのひとつとなりますが、恐らく99%の方にとって、防災とは「重要だけれど、あまりお金はかけたくない」対象と思われます。

何かのきっかけで「よし、うちもちゃんと防災しよう!」と一念発起すると、次の週末で家具を固定したり、物をそろえたりと、最初はがんばって防災対策を実行します。が、防災は「瞬間」の作業ではなく、死ぬまで継続すべき対応ですので、はたして1年後・5年後に同じ気持ちを維持できるかと言えば、これがなかなか難しいのです。結果多くのご家庭のリュックサックの中から、10年前に賞味期限が切れた缶詰が登場することになります…。

という訳で、防災対策は無限に手間やお金をかければよいというものではなく、「長続きできる範囲で、無理なく実施する」ことが大切であると言えます。もちろん、防災の楽しさに目覚めた方については、日頃から防災セットを持ち歩いたり、半年分の食料を常に確保したりと、素敵な防災沼…もとい、防災をライフスタイルにすることをおすすめします。

最重要な「防災グッズ」は住宅です

防災にお金と手間を掛けすぎない…とはいえ、お金の使いどころももちろんあります。それは「命」にかかわる事柄です。とはいえ、庭に核シェルターを埋めましょうとか、北海道と沖縄に別荘を買いましょうとか、そういう話ではありませんが、実は近いお話にはなります。

図1:国土交通省「重ねるハザードマップ」
スマホかパソコンがあれば、誰でも・無料で・登録せずに使える、全国好きな場所を閲覧できるハザードマップ、まずはこれを見ることから始めましょう!https://disaportal.gsi.go.jp/maps/

防災対策で最優先すべきは、水や食料の備蓄ではなく、「死なないための環境」を作ることです。大量の備蓄品があっても、大地震の揺れで自宅が倒壊してしまえば意味がありません。3万円の高級防災リュックを購入しても、収納していた戸棚が転倒して取り出せなくなれば、後悔だけが残ることになります。

つまり、防災で最も重要なアイテムは「家」なのです。沈んだり崩れたり燃えたりしない場所に建っている、地震で倒壊しない家に住むことが何よりも重要で、ここはお金をかけなければならない所です。より具体的には、ハザードマップで、「津波・浸水(洪水・内水氾濫・高潮)・土砂災害」の危険がない場所に建っている、「耐震等級3」の家に住むことです。

もし、これから住宅購入や引越を行う機会がある場合には、ぜひこれらの条件を気にして頂きたいと思います。とはいえ、全ての方がこうした住宅を選択できるという訳ではないのも事実です。そのため、ハザードマップなどで危険が想定される場所にお住まいの場合は、身に危険が生じた場合に「素早く安全な」避難を実施するため、事前に非常持出袋などを用意し、避難先の場所とルートを確認しておくことが重要です。

万が一の備えが大事に

さらに、万が一大地震などで建物を失った際、二重ローンの負担が厳しいと想定される場合は地震保険に加入する。

また建物が洪水・高潮・内水氾濫や、土砂災害の影響を受ける可能性がある場所に立地する場合は、火災保険に加入する。
さらに、見落としがち(低く見積もりがち)な家財に対しても、保険をしっかりかけることで、十分な補償を得られるようにする。といった金銭面の対策も重要になります。これは、J:COMほけんのコラムだからこう書いているのではなく、本当に重要な項目であるから書いているのです(ホントですよ!)。

室内の安全対策にも最低限の投資を

沈んだり崩れたりしない場所に建っている、大地震でつぶれない家に住むことができたら、次にお金を掛けるのは「室内の安全対策」です。

図2:各種の地震対策用品
持ち家であれば最も「安価かつ強力」なのは「金属金具+ネジ(前列右端)」による固定です。賃貸の場合は、「粘着タイプの固定器具(中列右)」「突っ張りタイプの固定器具(後列)」などを併用するようにしましょう。食器戸棚などには、「揺れたら自動的に扉がロック」される「耐震ラッチ(前列左から2番目)」などを取りつけるのもおすすめです。

●転倒防止:背の高い家具を転倒しないように固定する

●落下防止:高い場所に置いてある荷物を落下しないように固定する

●衝突防止:家電などが大地震の揺れで飛んでこないように固定する

●移動防止:キャスター付きの家具が激しく移動しないように固定する

●飛散防止:ガラスの窓や戸棚の扉が割れても飛散しないように、フィルムなどを貼る。

●火災対策:住宅用火災警報器を設置し、初期消火用のオシャレな消火器を置く

具体的にはこれらの項目を実施します。とはいえ、次の週末に全て行おうとすると力尽きること請け合いですので、お財布や休日の体力と相談しながら、少しずつ進めることをおすすめします。

防災備蓄品は日常備蓄を活用、でもトイレとカセットコンロは準備を

沈んだり崩れたりしない場所に建っている、大地震でつぶれない家に住み、室内の安全対策をきちんと行えば、災害で即死したり、避難所で不便な思いをする可能性はかなり小さくできます。ハザードマップで危険の無い場所に住んでいるならば、「避難指示」が出ても自宅に留まれば良いですし、大地震でライフラインが全て停止しても、自宅が無事であれば不便な避難所へ行かずに「在宅避難」をすれば良いのです。

特に、赤ちゃんや小さな子ども、高齢者・介護者・障がい者、ペットなどが家族にいる場合は、緊急避難が難しく、また避難所での生活は「災害関連死」を招く恐れもあるため、できるだけ自宅に留まれるようにすることが「命を守る」ためにも重要です。そして自宅が安全であれば、避難の可能性が減り、つまり高価な防災リュックを作る必要も薄れますので、かえって防災費用が安価になるというメリットもあります。

一方、停電・停ガス・断水などが発生した際に、自宅で生活を継続するためには、ライフラインを代替するための備蓄品が必要になります。これもお金を掛けようと思えば、無限に投資することができるのですが、その先に待つ物はゾッとする量の賞味期限切れ非常食…となりかねませんので、できれば前回のコラムでご紹介した「日常備蓄(ローリングストック)」で対応することがオススメです。

図3:非常用トイレ・カセットガスコンロ+ボンベ
カセットガスを年に1本消費できれば、7本のボンベを期限を切らさず備蓄できます。トイレは定期的に使うものではないので、「人数×1日5回×7日分」を最低量として購入し、押し入れにしまっておきましょう。

日常備蓄(ローリングストック)のコツ

日常備蓄は食品だけで無く、日用品全般の備蓄にも使えます。「いつか使うものを少し多めに買っておき、期限の近いものから消費して、無くなる前に補充する」ことを死ぬまで繰り返します。どうせ使うものを先に買うだけですのでお金がかかりませんし、また常に消費と補充を繰り返すため期限管理も楽になります。普段から使っている物を非常時にも使えますので、安心感も得られます。

日常備蓄をライフスタイル化できれば、特に意識することなく防災備蓄を継続することができます。まさに、手を抜いて・お金を掛けずに行う防災の理想系です。ただし、「非常用トイレ」と「カセットコンロ&ガス」だけは、多少お金を使ってでも、備蓄品のラインナップに追加することをおすすめします。トイレは10年、カセットガスは7年が備蓄の目安期限ですので、ライフラインの停止時に不可欠なこの2点だけはお金を使ってください。

自然災害大国日本、防災は「ライフスタイル」

世界有数の自然災害大国日本において、災害とは「来るか来ないか」ではなく、「いつ来るか」で準備を行うべき対象です。しかし「いつ来るか」分からない災害に対して常に全力で警戒をしていては、すぐに息切れをしてしまいます。災害で即死しない家、日常備蓄による手間を掛けない備蓄、そして被災しても生活を立て直せる保険、これらを活用することで、防災を生活に溶け込ませることができれば、息をするように防災が完了します。できるところからじっくり、ぜひお考え下さい!

今回のライター
備え・防災アドバイザー
高荷智也

1982年静岡県三島市生まれ。
備え・防災をテーマとした、講師業・執筆業・コンサル業・メディア出演業などに従事する、フリーの「防災の専門家」。各種自己メディアでも防災情報を積極配信中。

1982年静岡県三島市生まれ。
備え・防災をテーマとした、講師業・執筆業・コンサル業・メディア出演業などに従事する、フリーの「防災の専門家」。各種自己メディアでも防災情報を積極配信中。